鏡と皮膚 谷川渥

 僕は、「世界は鏡である」と主張しているため、鏡というタイトルがつくだけで手にとってしまう。

 この本は、スリリングでわくわくさせてくれる本です。

 瞳とは人見である。他者の目を見ると、確かに瞳に、私が写っている。

 相手はその瞳を通じて、私である人物を認識している。

 では、私の瞳には何が写っているのだろうか。

 当然、相手の顔が写っているはずだ。

 目と目を合わせるということは、鏡を二つ合わせるように、無限の距離が感じる。
だから、目を見て話すということは不安になる。

 本文は、オルフェスから始まる。

 オルフェウスとは、竪琴引きで蛇に噛まれて死んだ妻エウリュデーケ冥界に取り戻しに行く。ハーデスとペルセポネーの前で竪琴を奏でると、冥界のあらゆる物を魅了した。
 イクシオンの車輪は回転を止め、タンタロスは自らの乾きを忘れ、シーシュポスの岩は静止し、ダナオスの娘たちは水を汲むのをやめた。

 そして、オルフェウスが後ろを振り向かないとの条件で、エウリュデーケの帰還を許された。しかし、まさに地上に出ようとしたそのときに、オルフェウスは後ろを振り向いてしまう。そして、エウリュデーケはまた冥界に戻されてしまうのだ。